複雑・分かりにくいと評判のUSB PD (USB Power Delivery) について、知っておくべきポイントや勘違いしやすいポイントを解説します。
この記事について
コンピューター関係の代表的な仕様・規格の1つである「USB」は、検索すればたくさんの解説記事がヒットします。その一方で内容が不正確だったり、度重なる仕様改定に追いついていない古い記事も少なくなく、インターネットで正しい情報を得るのは容易ではありません。
そのUSBについて、毎回1つのテーマに沿って解説するシリーズが「今さら聞けないUSB」です。

ということで3回目の今回は「USB Power Delivery」について解説します。
USB PDとは
USB PowerDelivery、略してUSB PDとは、USBを使った電力供給に関する仕様・規格です。
データ転送に関する仕様 | USB4 / USB 3.2 / USB 2.0 |
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電力供給に関する仕様 | USB Power Delivery (USB PD) / USB Battery Charging (USB BC) |
コネクターの形状に関する仕様 | USB Type-C / USB 3.1 Legacy Cable and Connector |
通常、USBは5Vしか流しませんが、USB PDでは5Vの他に9V・15V・20Vといった高い電圧を使用することによって、通常よりも大きな電力を供給することが可能な仕様となっています。
USB PDのメリット
なぜUSB PDというものに注目が集まり、普及が進んでいるのかと言うと、ACアダプターを統一できるからです。

従来、ノートPCやスマートフォン、その他電子機器はコネクターの形状や充電時の入力電圧が異なっており、ACアダプターを使い回すことはできませんでした。特にノートPCは「同じメーカーの機種なのにコネクターの形が違う」なんてこともしばしばあり、ほぼ使いまわしの出来ない、非常に無駄の多い部分でした。
しかしながら、USB Type-CやUSB PDという共通の仕様が策定されたことにより、対応している機器同士であれば共通のACアダプター・ケーブルを使って充電できるようになりました。
このように、「同じACアダプターでPCもスマートフォンも充電できる」というのがUSB PDのメリットです。
USB PDは最大100W
USB PDは最大100W (20V 5A) まで供給することが可能です。例えばiPhone付属のACアダプターは5W出力ですから、USB PDはその20倍もの電力を供給することが可能ということになります。

ただし、「最大100W」であって「USB PD = 100W」ではありません。「USB PDに対応しているけれど最大18W出力のACアダプター」というものも存在しています。 (というか100W出せるACアダプターのほうが少ない)
USB PDはUSB Type-Cのみで利用できる
USB PDはUSB Type-Cのみで利用することができます。「USB Type-C」とはUSBコネクターの形状の一種で、リバーシブルなことが特徴です。
片方だけがUSB Type-Cなケーブルもありますが、片方だけではダメです。ACアダプター・ケーブル・スマートフォン・PCなどが全てUSB Type-Cで統一されている場合のみUSB PDを利用することができます。変換アダプターもNGです。
USB Type-CだからといってUSB PDに対応してるとは限らない
非常にややこしい部分ですが、USB Type-Cだからといって必ずUSB PDに対応しているわけではありません。USB PDに対応しているかどうかはそのデバイス次第です。
これはMSIの「PS42 8RB」というノートPCのスペック表から抜粋したものですが、USB Type-Cなのに「USB Power Delivery非対応」と書かれています。
このように、USB Type-CではあるもののUSB PDに対応していないものも少なくありません。PCのスペック表などで明記されていないこともあるため、「USB Type-CだからUSB PDで充電できる!」と早とちりせず、しっかりと対応しているか確認する必要があります。
3Aまでのケーブルと5Aまで流せるケーブルがある
これまたややこしい話ですが、両端がUSB Type-CのC to Cケーブルには60W (20V 3A) までしか流せないケーブルと、 100W (20V 5A) まで流せるケーブルの2種類があります。
↓3Aまでのケーブル
↓5Aまで流せるケーブル
例えばMacBook Pro 16インチのACアダプターは96W (USB PD的には94W) 出力ですが、5A対応のケーブルを使わなければ94W (20V 4.7A) は出力されません。3Aまでのケーブルを使った場合は最大60W (20V 3.0A) となります。
よくある誤解 : USB PD非対応ケーブル

ケーブルに関して誤解が多いのが「USB PD非対応ケーブル」です。メーカーのHPに「このケーブルはUSB PD非対応です」というようなことが書いてあったり、解説系の記事で「USB PDを使用するには対応しているケーブルが必要です」といった説明を読んだことがある方も多いのではないでしょうか。
ハッキリと言っておきますが、USB Type-C・USB PDの仕様上、「USB PD非対応ケーブル」というものは存在しません。百均のケーブルでもUSB PDは動作します。 (「できる」と「安全」は別の話なので、動作するからといって100円のケーブルに十数万円のデバイスの命を預けるのもどうかと思いますが)
解説系の記事で「USB PDには対応ケーブルと非対応ケーブルがあります」といった説明がされていたらそれは明確に間違いなので、そのような記事は真に受けないようにしましょう。
USB PDまとめ
最後に、USB PD (USB Power Delivery) についてまとめます。
- USB PDは最大100W (20V 5A) まで電力を供給できる仕様・規格
- USB PDはUSB Type-Cのみで利用できる
- 「USB Type-C = USB PD対応」ではない
- PC・スマホの注意点
- 対応しているどうかはそのモデル次第
- ノートPCについては、何ワット以上で充電できるのかについても気をつける必要がある
- ケーブルの注意点
- USB PDを利用するためには、両端がUSB Type-CであるC to Cケーブルが必要
- C to Cケーブルであれば全てのケーブルでUSB PDが動作する
- 3A (60W) までのケーブルと5A (100W) まで流せるケーブルがある点に要注意
- ACアダプターの注意点
- USB Type-CであってもUSB PDに対応してるとは限らない
- 何ワットを出力できるかはそのACアダプター次第
要点に絞って説明したつもりですが、それでも色々と注意点があるのは否めません。しかしながら、これからUSB Type-C・USB PDに統一されていくのは間違いないので、頑張って理解してもらって、快適な充電ライフを送ってもらえればと思います。
参考文献 / References
この記事は以下の仕様を元に作成しました。
- USB Power Delivery Specification, Revision 3.0, Version 2.0
- USB Type-C Cable and Connector Specification, Release 2.0
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