USB PD (USB Power Delivery) のパワールールやパワープロファイルについて解説します。
パワールール (Power Rules) とは
パワールール (Power Rules) とは「USB PDを利用する上で、機器同士の互換性を最大限保つために、電力を供給する側の機器 (Source) や電力を受け取る側の機器 (Sink) が守るべきルール」です。「みんなが好き勝手に使う電圧や電流を決めたら互換性がなくなっちゃうから、ある程度ルール決めてやろうぜ」ということですね。
パワールールと言うと出力側機器 = Sourceにのみフォーカスが当たる場合が多いですが、Sourceが守るべきソースパワールール (Source Power Rules) と、受電側機器 = Sinkが守るべきシンクパワールール (Sink Power Rules) に分かれています。
ソースパワールール (Source Power Rules)
ソースパワールールでは、「Sourceが必ず出力できなければならない電圧・電流」などが規定されており、その中でも標準的に使用される電圧 (Normative Voltages) として以下の4つを定めています。
- 5V
- 9V
- 15V
- 20V
ただし全てのSourceがこの4種類の電圧全てを出力できるわけではなく、どの電圧を出力できるかはUSB PDで何ワット出力できるか (PD Power Rating) によって決まります。
それをまとめたものが以下の表です。
表だとちょっと分かりにくいので、具体例を出します。例えばPDP Rating 30Wの場合、
- 5V : 最低3A
- 9V : 最低3A
- 15V : 2A
を出力できなければなりません。20Vに関しては必須ではありません (not required) 。
「出力できなければならない (shall) 」というのがポイントで、これによってSourceの性能がある程度統一されるため、機器間の互換性が確保されます。
もう1つ例を出しましょう。例えばPDP Rating 65Wの場合、
- 5V : 最低3A
- 9V : 最低3A
- 15V : 最低3A
- 20V : 3.25A
を出力できる必要があります。
ただし、この表は「最低限出力できなければならない電圧・電流」を示しているだけなので、3Aを超えて5Aまで出力することも可能です。
その点を反映すると、以下のようになります。
PDP Rating | 5V | 9V | 15V | 20V |
---|---|---|---|---|
0〜15W | (PDP÷5)A | 必須ではない | 必須ではない | 必須ではない |
15〜25W | 3A〜(PDP÷5)A | (PDP÷9)A | 必須ではない | 必須ではない |
25〜27W | 3A〜5A | (PDP÷9)A | 必須ではない | 必須ではない |
27〜45W | 3A〜5A | 3A〜(PDP÷9)A | (PDP÷15)A | 必須ではない |
45〜60W | 3A〜5A | 3A〜5A | 3A〜(PDP÷15)A | (PDP÷20)A |
60〜100W | 3A〜5A | 3A〜5A | 3A〜5A | (PDP÷20)A |
これに加えて、ソースパワールールでは5V・9V・15V・20V以外の電圧に対応することも認めていて、これをOptional Voltagesと言います。例えば、Normative Voltagesではない12Vに対応してるACアダプターがありますが、あれがOptional Voltageに当たります。
なお、Optional Voltageに対応する場合も上記の表に当てはまる電圧・電流の組み合わせを出力できる必要があるため、例えばPDP Rating 60Wの場合では
- 5V : 3A〜5A
- 9V : 3A〜5A
- 12V : 3A〜5A
- 15W : 3A〜4A
- 20V : 3A
を出力できなければなりません。
ソースパワールールについてまとめます。
- 標準の電圧は5V・9V・15・20Vの4つ
- 12Vなど、標準以外の電圧に対応するのもOK
- 一定のワット数を超えると、それぞれの電圧で最低でも3Aを出力できなければならない
これ以外にもちょこちょこと決まりがありますが、ユーザーレベルで知っておくべきことはこんな感じです。
シンクパワールール (Sink Power Rules)
ソースパワールールと比較して影が薄いのがシンク・パワールールです。実際、USB PDの仕様書でもソースパワールールよりボリュームが少ないです。
シンクパワールールはユーザーレベルではそこまで気にするべき項目はありませんが、1点、豆知識というかTipがあります。
GPD Pocketに代表される中華UMPCの中には、12Vを出力できるACアダプターでないと充電できないものがありますが、これはシンクパワールール違反です。
シンクパワールールでは
- オプション電圧・電流を使用した場合のみでしか動作しないSinkは予防しなければならない (“Preventing Sinks that only function well (or at all) when using Optional voltages and currents.“)
- オプション電圧・電流に最適化されたSinkは、標準電圧・電流を使用した場合も同様のユーザーエクスペリエンスを提供しなければならない (“A Sink optimized for a Source with Optional voltages and currents or power as described in Section 10.2.3 with a PDP Rating of x W Shall provide a similar user experience when powered from a Source with a PDP Rating of ≥ x W that supplies only the Normative voltages and currents as specified in Section 10.2.2.“)
と規定されているため、オプション電圧である12Vでないと充電できない中華UMPCはシンクパワールールに違反しています。
「このACアダプターは12Vを出力できないから○○では使えないなぁ」みたいなツイートをたまに見かけますが、12Vでしか動作しないそのデバイスが悪いのであってACアダプターには何の非もないので、ACアダプターではなくデバイスを買い換えましょう。
パワープロファイル (Power Profiles) とは
パワールールを説明したので、次はパワープロファイル (Power Profiles) について説明します。
まずパワープロファイルのポジションをハッキリさせておくと、パワープロファイルはパワールールの前身となったルール・規定です。既に2016年に廃止されてパワールールに移行しているため、覚えておく必要はありません。「ふーんそういうものもあったのね」ぐらいに思っておけばOKです。
そのパワープロファイルは以下のような仕様となっています。
プロファイル | 5V | 12V | 20V |
---|---|---|---|
Profile 1 (〜10W) | 2A | なし | なし |
Profile 2 (〜18W) | 2A | 1.5A | なし |
Profile 3 (〜36W) | 2A | 3A | なし |
Profile 4 (〜60W) | 2A | 5A | 3A |
Profile 5 (〜100W) | 2A | 5A | 5A |
パワールールにある9Vと15Vが無く、5V・12V・20Vの3系統のみとなっています。
といってもプロファイル外の電圧を出力するのもOKなので、9Vや15Vを出力しても仕様違反ではありません。さらに言うと、そもそもパワープロファイル自体がオプション扱いなので、この表の出力を守る必要はありません。5V 3Aなどを出力するのもOKです。
「何を出力したって良いけど、Source作るにしてもSink作るにしてもある程度ルール決めといたほうが良いよね」的な意図で定められていたものだと私は解釈しています。
パワープロファイルをざっと説明するとこんな感じですが、章の最初でも言ったようにパワープロファイルは既に廃止されており、それに基づいている製品も少ないため、覚えておく必要はありません。「ふーんそういうものもあったのねー」ぐらいの認識でOKです。
オマケ : USB PD仕様改定の歴史
USB PDは以下のような流れで仕様が改定されています。
- 2012年 : USB PD Revision 1.0が策定される
- 全く普及せず
- 2014年 : USB PD Revision 2.0が策定される
- この時はまだパワープロファイルが使われていた
- 2015年 : USB PD Revision 3.0が策定される
- この時にパワールールが導入される
- 2016年 : USB PD Revision 2.0にパワールールがバックポートされる
- これ以降はUSB PD Revision 2.0もパワールールが使用されている
発行年月 | Power Profiles | Power Rules | ||
---|---|---|---|---|
2012年7月 | Rev. 1.0 Ver. 1.0 | |||
2012年10月 | 同 Ver. 1.1 | |||
2013年6月 | 同 Ver. 1.2 | |||
2014年3月 | 同 Ver. 1.3 | |||
2014年8月 | Rev. 2.0 Ver. 1.0 | |||
2015年5月 | 同 Ver. 1.1 | |||
2015年12月 | Rev. 3.0 Ver. 1.0 | |||
2016年3月 | Rev. 2.0 Ver. 1.2 | 同 Ver. 1.0a | ||
2017年1月 | 同 Ver. 1.3 | 同 Ver. 1.1 | ||
2018年6月 | 同 Ver. 1.2 | |||
2019年8月 | 同 Ver. 2.0 |
このように1度大きく仕様が変わっているため、USB PDに関する解説は結構情報が錯綜しています。検索すると「USB PDは5V・12V・20Vを使用し……」という説明がされている記事もヒットしますが、それらは “内容自体は合っているが古い仕様に基づいて書かれている昔の記事” か、 “ググって出てきた内容をただコピペしただけの質の低い記事” のどちらかであり、いずれにしても現在は役に立たない情報なので、読むだけ時間の無駄です。USB PD関連の情報を集める際は、最低でも2017年以降、できれば2018年以降に書かれた記事を読んだほうが良いと思います。
参考文献 / References
この記事は以下の仕様を元に作成しました。
- USB Power Delivery Specification, Revision 3.0, Version 2.0
- USB Power Delivery Specification, Revision 2.0, Version 1.1