非常に分かりにくい「Thunderbolt 3」と「USB Type-C (USB-C) 」の違いについて、詳しく解説します。
はじめに
最近のPC関係で最も分かりにくいネタの1つが「USB Type-C」です。特にThunderbolt 3が絡んでくるとスペック表などで「Thunderbolt 3 (USB-C) 」といった訳わからん表記がされるため、完全に初見殺しとなっています。
私も最近PCを新調しようとした時にこの壁にぶち当たり、あまりの分かりにくさに半分キレながらThunderbolt 3とUSB Type-Cの違いについて調べたので、その内容を備忘録として残しておきます。
USB Type-Cとはコネクターの形状の1種
まず何よりも先にハッキリとさせておかなければならないのが、「USB Type-Cはただのコネクターの形状の1種であり、何か具体的な機能を示しているわけではない」という点です。
勘違いされることが多いですが、「USB Type-C = USB 3.1」ではありません。USB Type-Cであっても中身はUSB 2.0なポート・ケーブルは普通に存在しています。そのため、USB Type-Cだからといって必ずデータ伝送速度が早いわけではありません。
また、「USB Type-C = USB PD対応」ではないという点にも注意が必要です。最近はUSB Type-Cポートを備えているノートPCも多いですが、そのUSB Type-CポートからPCを充電できるかどうかは機種によって異なります。
- USB Type-Cはコネクターの形状の1種
- USB Type-C ≠ USB 3.1
- USB Type-C ≠ USB PD対応
という3つのポイントを理解したら、次に移りましょう。
Thunderbolt 3の動作原理
Alternate Modeとは
Thunderbolt 3は、USB Type-CのAlternate Modeという仕組みを利用して動作します。
Alternate Modeとは、USB Type-Cポート・ケーブルを使用して別の仕様 (規格) の信号を流す仕組みのことです。「○○ Alternate Mode」と書かれていたら、ケーブルやポートはUSB Type-Cだけど、実際の信号は〇〇という別の規格が流れることを意味します。
Alternate Modeで流せる信号としてはDisplayPort、Thunderbolt 3などがあります。
基本はUSB Type-C
Thunderbolt 3はUSB Type-CのAlternate Modeという仕組みを使って動作しています。つまり、基本はUSB Type-Cです。
言い換えれば、Thunderbolt 3ポート・ケーブルとは「色々あるUSB Type-Cポート・ケーブルのバリエーションのうちの1つ」ということになります。
「Thunderbolt 3 (USB-C) 」という表記
PCのスペック表でよく見かける「Thunderbolt 3 (USB-C) 」といった表記ですが、あの表記こそがThunderbolt 3とUSB Type-Cの違いを分かりにくくさせている元凶です。
何度も言っていますが、Thunderbolt 3はUSB Type-CのAlternate Modeという仕組みを利用して動作しています。つまり言い換えれば、Thunderbolt 3ポートとは「Thunderbolt 3 Alternate Modeに対応したUSB Type-Cポート」です。
なので、「Thunderbolt 3 (USB-C) 」といった表記をPCのスペック表などで見かけたら、「あぁ、Thunderbolt 3 Alternate Modeに対応したUSB Type-Cポートなんだな」と考えると理解しやすくなるかもしれません。
PCのThunderbolt 3ポート
※Thunderbolt 3ポートにはPC側のホスト/DFPと、周辺機器側のデバイス/UFPの2種類がありますが、この章ではホスト/DFPに絞って説明します。何言ってるか分からない場合は「周辺機器ではなくPCのThunderbolt 3ポートについて説明しているんだな」と思ってください。
PCに搭載されているThunderbolt 3ポートは以下の3種類のデータ伝送を行うことができます。
- USB 3.1 Gen 2
- DisplayPort (Alt Mode)
- Thunderbolt 3 (Alt Mode)
USB 3.1 Gen 2
Thunderbolt 3ポートはUSB Type-Cポートの1種なので当然といえば当然ですが、USBのデータ伝送を行うことが可能です。 (“Thunderbolt 3 ports are fully compatible with USB devices and cables.“)
ただし、Thunderbolt 3ポートと普通のUSB Type-Cポートでは、ある1点が異なっています。それは「Thunderbolt 3ポートはもれなくUSB 3.1 Gen 2に対応している」という点です。
USB Type-Cとはコネクターの形状のことです。そのため、見た目は同じでも中身はUSB 2.0だったりUSB 3.1 Gen 1だったりUSB 3.1 Gen 2だったりします。
それに対して、Thunderbolt 3ポートはUSB 3.1 Gen 2で統一されています。
DisplayPort
ただのUSB Type-Cポートは機種によってDisplayPort Alt Modeの対応・非対応はバラバラですが、Thunderbolt 3ポートはもれなくDisplayPort Alt Modeによる映像出力に対応しています。 (“Thunderbolt 3 ports are fully compatible with DisplayPort devices and cables.“)
Thunderbolt 3
当然ですが、Thunderbolt 3ポートはAlt ModeによるThunderbolt 3のデータ伝送に対応しています。
まとめ
「Thunderbolt 3ポート」と「USB Type-Cポート」の違いをまとめたものが以下の表です。
ポートの種類 | USB 2.0 | USB 3.1 Gen 2 | DisplayPort (Alt Mode) | Thunderbolt 3 (Alt Mode) | USB PD による充電 |
---|---|---|---|---|---|
Thunderbolt 3ポート | ✓ | ✓ | ✓ | ✓ | 機種による |
USB Type-Cポート | ✓ | 機種による | 機種による | 機種による | 機種による |
一言で言ってしまえば、「Thunderbolt 3ポート = 全部入り」です。ただし、全部入りなのはあくまでデータ伝送のみであって、USB PDによる充電は機種によって対応・非対応が異なります。
Thunderbolt 3ケーブルは3種類ある
次はケーブルについてです。とりあえず先にまとめを載せておき、下に注意点を書いていこうと思います。
ケーブルの種類 | USB接続 | Alternate Mode接続 | USB PD | |||||
---|---|---|---|---|---|---|---|---|
USB 2.0 | USB 3.1 | DisplayPort | TB3 (20Gbps) | TB3 (40Gbps) | 3A (60W) | 5A (100W) | ||
Thunderbolt 3 ケーブル |
パッシブ (0.8m以下) | ✓ | ✓ | ✓ | ✓ | ✓ | ✓ | ケーブルによる |
パッシブ (1m以上) | ✓ | ✓ | ✓ | ✓ | 非対応 | ✓ | ケーブルによる | |
アクティブ | ✓ | 非対応 | 非対応 | ✓ | ✓ | ✓ | ケーブルによる | |
USB Type-C ケーブル |
USB 3.1 | ✓ | ✓ | ケーブルによる | ケーブルによる | 非対応 | ✓ | ケーブルによる |
USB 2.0 | ✓ | 非対応 | 非対応 | 非対応 | 非対応 | ✓ | ケーブルによる |
※USB 3.1ケーブルでのDisplayPort接続やThunderbolt 3 (20Gbps) 接続は理論上どのUSB 3.1ケーブルでも可能なはずですが、粗悪なケーブルでは特に1mを超えると信号の劣化により動作が不安定になったり動作しない場合があるため、「ケーブルによる」としています。
アクティブ・パッシブとは
アクティブ・パッシブというのは、「信号を補正・調整する機能を持っているかどうか」を表しています。
一般的に、信号調整機能など何らかの電子回路を備えているケーブルをアクティブケーブルと呼び、そういった機能のない単純なケーブルのことをパッシブケーブルと呼びます。これはThunderboltに限らず、ケーブル全般で使われる呼び方です。 (HDMIケーブルの例)
「40Gbps対応=アクティブケーブル」ではない
「40Gbpsでのデータ伝送はアクティブケーブルのみで、パッシブケーブルでは20Gbpsまで」という勘違いをしやすいですが、それは誤りです。
なぜアクティブケーブルが信号を調整するかというと、何もしなければノイズや減衰で40Gbpsという速度を確保できないからです。逆に言えば、ノイズや減衰の影響が小さければ信号を補正・調整せずとも40Gbpsでのデータ伝送が可能ということになります。
そのため、パッシブケーブルでも0.8m以下のケーブルであれば40Gbpsのデータ伝送に対応しています。
アクティブケーブルとパッシブケーブルのどちらを買うべきか
Thunderbolt 3ケーブルで迷った時に買うべきなのは0.8m以下のパッシブケーブルです。0.8m以下のパッシブケーブルはThunderbolt 3 40Gbpsデータ伝送に対応しており、なおかつUSB 3.1 Gen 2やDisplayPort Alt Modeにも対応している万能品なので、長さが0.8mで足りるのであればパッシブケーブルを買うのが良いです。
一方のアクティブケーブルは、基本的には避けるべきです。なぜかというと、アクティブケーブルはUSB 3.1やDisplayPort Alt Modeに対応しておらず、USB 2.0とThunderbolt 3の2種類のデータ伝送しか行なえないからです。おまけに5000円以上と高価なので、Thunderbolt 3 40Gbpsのデータ伝送を行う必要があり、なおかつ1m以上の長さが求められる場合にのみアクティブケーブルを買うのが良いです。
Thunderbolt 3周辺機器について
Thunderbolt 3はSSDやモニター、ドッキングステーション (ドック) といった周辺機器に関しても注意が必要です。なぜかというと、Thunderbolt 3周辺機器は基本的にThunderbolt 3非対応のPCでは使えないからです。
この辺の細かい話は、Thunderbolt 3周辺機器に使用されているThunderbolt 3コントローラーが関係してきます。Thunderbolt 3コントローラーには大きく分けてAlpine RidgeとTitan Ridgeという2種類のコントローラーがあるのですが、先発のAlpine RidgeはThunderbolt 3接続のみをサポートしており、USB接続やDP Alt Mode接続をサポートしていません。そのため、Alpine Ridgeを採用している周辺機器はThunderbolt 3非対応のPCでは使用できません。
これに対して後発のTitan Ridgeは、USB接続やDP Alt Mode接続もサポートしています。そのため、Titan Ridge採用の周辺機器であればThunderbolt 3非対応のPCでも使うことが可能です。 (ただしTitan Ridge採用のThunderbolt 3周辺機器はあまり数が多くないため、「基本的にThunderbolt 3周辺機器はThunderbolt 3非対応PCでは使えない」と思っていたほうが良いです)
Thunderbolt 3製品まとめ
自分の備忘録も兼ねて、日本で買えるThunderbolt 3ケーブル・ドックをまとめておきます。
最近Amazonなどで怪しいThunderbolt 3ケーブルが販売されていますが、あれらの怪しいケーブルはThunderbolt製品に義務づけられているコンプライアンステストを通しているか疑わしいため推奨しません。以下のリストにはテストに通過している製品のみをまとめています。
パッシブケーブル
メーカー・ブランド | 製品名・型番 | データ伝送速度 | USB PD | 長さ | Amazon.co.jpリンク | メーカー製品ページ |
---|---|---|---|---|---|---|
Apple | A1896 | 40Gbps | 5A | 0.8m | Amazon.co.jp | Apple |
Belkin | F2CD084BT0.8MBK-A | 40Gbps | 5A | 0.8m | Amazon.co.jp | Belkin |
Cable Matters | 107002-BLK-0.8m | 40Gbps | 5A | 0.8m | Amazon.co.jp | Cable Matters |
Cable Matters | 107002-BLK-1m | 20Gbps | 5A | 1.0m | Amazon.co.jp | Cable Matters |
Cable Matters | 107002-BLK-2m | 20Gbps | 5A | 2.0m | Amazon.co.jp | Cable Matters |
HighPoint | TB3-040G-505 | 40Gbps | 5A | 0.5m | Amazon.co.jp | HighPoint |
Plugable | TBT3-20G2M | 20Gbps | 5A | 2.0m | Amazon.co.jp | Plugable |
StarTech | TBLT34MM80CM | 40Gbps | 5A | 0.8m | Amazon.co.jp | StarTech |
住友電工 | 01670-A61112GCPCPS5080E3 | 40Gbps | 5A | 0.5m | Amazon.co.jp | 住友電工 |
住友電工 | 01670-A61112GCPCPS5080E3 | 40Gbps | 5A | 0.8m | Amazon.co.jp | 住友電工 |
アクティブケーブル
アクティブケーブルはUSB 3.1やDisplayPort Alternate Modeのデータ伝送に対応していないので注意してください。
メーカー・ブランド | 製品名・型番 | データ伝送速度 | USB PD | 長さ | Amazon.co.jpリンク | メーカー製品ページ |
---|---|---|---|---|---|---|
Cable Matters | 107012-BLK-2m | 40Gbps | 5A | 2m | Amazon.co.jp | Cable Matters |
HighPoint | TB3-040G-520 | 40Gbps | 5A | 2m | Amazon.co.jp | HighPoint |
StarTech | TBLT3MM2MA | 40Gbps | 5A | 2m | Amazon.co.jp | StarTech |
住友電工 | 01671-A61112GCPCPA520063 | 40Gbps | 5A | 2m | Amazon.co.jp | 住友電工 |
Thunderbolt 3ドック
この表の「USB-C対応」はThunderbolt 3非対応PC (USB3 + DP Alt Mode) でも動作可能かどうかを表しており、「USB-C対応」にチェックのある製品はiPad Proなどでも使用可能です。
メーカー・ブランド | 製品名・型番 | 発売年 | 電力供給 (USB PD) | USB-C対応 | Amazon.co.jpリンク | メーカー製品ページ |
---|---|---|---|---|---|---|
AKiTiO | Thunder3 Dock Pro | 2018年 | 60W | – | Amazon.co.jp | AKiTiO |
Belkin | Thunderbolt 3 Express Dock HD | 2017年 | 85W | – | Belkin | |
Belkin | Thunderbolt 3 Dock Pro | 2019年 | 85W | ✓ | Belkin | |
Belkin | Thunderbolt 3 Dock Core | 2020年 | 60W | – | Belkin | |
CalDigit | TS3 Plus | 2018年 | 87W | – | Amazon.co.jp | CalDigit |
CalDigit | Thunderbolt 3 Mini Dock (Dual DisplayPort 1.2) | 2018年 | – | – | Amazon.co.jp | CalDigit |
CalDigit | Thunderbolt 3 Mini Dock (Dual HDMI 2.0) | 2018年 | – | – | Amazon.co.jp | CalDigit |
CalDigit | USB-C Pro Dock | 2019年 | 85W | ✓ | Amazon.co.jp | CalDigit |
CalDigit | USB-C HDMI Dock | 2020年 | 94W | ✓ | Amazon.co.jp | CalDigit |
HP | Thunderbolt 3 Dock 120W G2 | 2018年 | 100W | ✓ | HP | |
OWC | Thunderbolt 3 Dock | 2018年 | 85W | – | Amazon.co.jp | OWC |
OWC | Thunderbolt 3 Pro Dock | 2019年 | 60W | – | Amazon.co.jp | OWC |
OWC | Thunderbolt 3 mini Dock | 2020年 | – | – | Amazon.co.jp | OWC |
OWC | Thunderbolt to Dual DisplayPort Adapter | 2021年 | – | – | Amazon.co.jp | OWC |
OWC | Thunderbolt Pro Dock | 2022年 | 85W | – | Amazon.co.jp | OWC |
Thunderbolt 3 “Pro” ケーブル
途中に挟むと訳が分からなくなるのであえて最後まで触れないでおきましたが、2020年6月からAppleが「Thunderbolt 3 Proケーブル」というものを販売しています。Thunderbolt 3 Proケーブルは2019年12月発売の「Pro Display XDR」に付属しているケーブルで、これはその単品販売版となります。
何が “Pro” なのかというと、そのスペックです。上でも説明したように、パッシブケーブルでThunderbolt 3 40Gbpsのデータ伝送を行えるのは0.8m以下のケーブルのみであり、0.8mより長いパッシブケーブルでは20Gbps止まりとなります。0.8mより長いケーブルでThunderbolt 3 40Gbpsのデータ伝送を行うためにはアクティブケーブルを使用する必要がありますが、Thunderbolt 3アクティブケーブルはUSB 3.1やDisplayPort Alt Modeのデータ伝送には対応していないため、「Thunderbolt 3 40GbpsとUSB 3.1とDisplayPort Alt Modeの3種類に対応している1m以上のケーブル」は今まで存在していませんでした。
これに対してThunderbolt 3 Proケーブルは、2mという長さであるにも関わらず、Thunderbolt 3 40Gbps・USB 3.1 Gen 2・HBR3 (DisplayPort) のデータ伝送に対応しています。それゆえThunderbolt 3 “Pro” ケーブルというわけです。
ちなみにThunderbolt 3 Proケーブルは値段もPro仕様となっており、日本では税別12,800円となっています。
所感
「USB Type-C分からん」という人は少なくありませんが、その原因の一端は間違いなくThunderbolt 3にあります。物理的な形状はUSB Type-Cなのに「Thunderbolt 3ポート」や「Thunderbolt 3ケーブル」といったネーミングのせいでThunderbolt 3ではないUSB Type-Cと互換性があるのかないのか分かりにくく、ユーザーが混乱するのも無理はありません。
アクティブケーブルがUSB 3.xやDisplayPort Alt Modeに非対応なのもユーザーを罠に嵌めようとしているとしか思えませんし、もう少しユーザーのことを考えてほしいですね。