タイトルの通り、CIOのモバイルバッテリー「CIO SMARTCOBY 20000mAh 60W」は3Aケーブルでも5Aの出力を通知してくるUSB PD仕様違反の製品です。
レビューしている製品
この記事で取り上げているモバイルバッテリーは↓です。Amazonマーケットプレイス出品者「株式会社CIO」が販売していた個体を購入しました。
3Aケーブルでも5Aが通知される
CIO SMARTCOBY 20000mAh 60WはUSB PDに関して以下の出力を通知してきます。
- 5.0V⎓3.0A (Fixed)
- 9.0V⎓3.0A (Fixed)
- 12.0V⎓3.0A (Fixed)
- 15.0V⎓3.0A (Fixed)
- 20.0V⎓3.0A (Fixed)
- 3.3-6.0V⎓5.0A (PPS)
- 3.3-11.0V⎓5.0A (PPS)
写真の通り、PPS 3.3-6.0VとPPS 3.3-11.0Vの電流値が5.0Aになっています。
両端がUSB Type-CであるC to Cケーブルには、最大60W (20V/3A)まで流せる60Wケーブルと、最大100W (20V/5A) まで流すことのできる100Wケーブルの2種類があり、電力供給側の機器が3Aを超える出力を通知していいのは100Wケーブルが使用されている場合のみです。
この写真で使用しているケーブルはエレコムのU2C-CC10NBK2で、このケーブルはUSB PD 60W (20V 3A) 対応の60Wケーブルなので、5Aの出力が通知されているのはおかしいです。
Media LogicのUSB PDアナライザーを使ってもう少し詳しく調べてみましたが、このCIO SMARTCOBY 20000mAh 60Wはそもそも60Wケーブルなのか100Wケーブルなのかチェックする動作を行っていませんでした。60Wケーブルを使っていようが100Wケーブルを使っていようが問答無用で5Aの出力を通知します。
USB PDの仕様を確認すると、「電力供給側の機器が3Aを超える電流を提供する場合は、まず先にSOP’ Discover Identifyコマンドでケーブルの能力を検出し、ケーブルの能力を超えないように最大出力を制限すること」という内容の記載があります。要は「ケーブルのeMarkerと通信して、ケーブルが5A対応だと確認できた場合のみ3Aを超える電流を流してもOKだけど、そうでない場合は3A以内に制限しなければならない」ということです。
これらの記載は全部 “Shall” なので必ず適合するようにしなければなりませんが、CIO SMARTCOBY 20000mAh 60Wはケーブルをチェックせずに問答無用で5Aの出力を通知してくるため、USB PDの仕様に違反しています。
なぜケーブルの能力を検出するプロセスを踏まなければならないのかと言うと、流れる電流が大きくなるほどケーブル等の抵抗による影響が大きくなるからです。ケーブルに電気、特に直流の電気が流れる場合はケーブル等の抵抗による損失が大きく、電圧も降下します。そのため、3Aを超える電気を流す場合は、60Wケーブルより抵抗が低いはずの100Wケーブルを使用することが求められています。
仮に60Wケーブルに5Aが流れたとしても電熱線に電気を流しているわけではないのでケーブルの被膜が溶けるほど発熱するとかそういったことにはならないとは思いますが、この辺は安全性といった部分にも関係してくる話です。こういったところがおろそかな製品は信用できませんし、この程度の基本的な事項も守れていないというのは非常にずさんでお粗末という印象です。
余談:仕様に記載されている電圧が出力できない
余談ですが、CIO SMARTCOBY 20000mAh 60Wの仕様を確認すると、PPS 3.3-16.0Vや3.3-21.0Vにも対応しているかのような記載があります。
しかし、私が使った限りではどんな操作をしてもこれらの出力が通知されることはありませんでした。通知されたのは、以下の出力のみです。
バッテリーが減ってるとダメなのかと思って満タンまで充電してみても結果は変わらなかったので、恐らくそもそも対応していないのでしょう。
CIOの商品は、別のACアダプターでも仕様上は3Aとなっているのに実際は5Aが通知されるということがありました。こういうことが連続して起きているので「設計製造元が言ってるスペックを鵜呑みにして、自分たちで検証したりはしていないんだろうな」と疑わざるを得ません。
この他にも、CIOは購入者が「充電できない」という問い合わせをすると「このサイトを見てください」という内容でうちの記事のURLを返信しているようです。
まともな企業であれば、購入者からの問い合わせに対して、どこの馬の骨とも知れない人間が書いた信憑性不明の記事を確認するように返答したりはしません。やはりCIOは自分たちで検証する気がないのでしょう。
このような企業の商品を、本当にお金を払ってまで買いたいですか?