Quick Charge 4/4+の実態を探る

ACアダプターやモバイルバッテリーのレビューなどで「この充電器 or バッテリーはUSB PD PPSに対応しているのでQuick Charge 4/4+対応スマートフォンを急速充電できますね」といった説明を読んだことがある人は割といるのではないでしょうか。

Qualcomm非公式の媒体では「Quick Charge 4/4+はUSB PD PPSを使用している」ということが真実であるかのように語られていますが、プレスリリース等の一般人でもアクセスできるQualcomm公式媒体でそのような内容の説明がされているものは1つもありません。つまり、当たり前のように語られている「QC4/4+はUSB PD PPSを使用している」という内容は、実は一般人には真偽不明です。「この充電器はUSB PD PPSに対応しているのでQC4/4+対応スマートフォンを超急速充電できます」みたいな説明をしているWebサイトはいったいどうやって裏取りをしているのでしょうか。不思議ですね。

また、Quick Charge 4/4+に関しては「QC4はUSB Type-C仕様準拠、QC4+は仕様違反」という言説もまことしやかにささやかれています。これはQC4/4+のQuick Charge 2.0/3.0との後方互換性を論点として、QC4は後方互換性がないので仕様準拠、QC4+は後方互換性があるので仕様違反という理屈のようですが、これに関しても真偽不明です。

このようにQuick Charge 4/4+では、本当かどうか怪しい説明・真偽不明の言説があたかも真実であるかのように語られています。これらについて本当かどうか気になったので、調べてみました。

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この記事の目的・ゴール

Quick Charge 4/4+に関する疑問は以下の2点です。

  1. 「ACアダプターがUSB PD PPS対応 = QC4/4+対応スマホをQC4/4+で充電できる」という風に一般的には語られているが、それは本当なのか?
  2. Quick Charge 4はQuick Charge 2.0/3.0との後方互換性がないと言われているが、それは本当なのか?

この2つに関して、何らかの結論を出すことをこの記事の目標・ゴールとします。

Qualcomm公式の文章を調査

USBのように仕様書が公開されているのであればそれを見るのが1番早くて確実ですが、残念ながらQuick ChargeはQualcommのプロプライエタリな充電規格なので仕様書は一般には公開されていません。そのため、まずは一般人でもアクセスできるプレスリリースなどのQualcomm公式の文章から重要そうな部分を抜き出していきます。

Quick Charge 4

  • https://www.qualcomm.com/news/releases/2016/11/17/new-qualcomm-quick-charge-4-delivers-20-faster-charging-improved-efficiency
    • QC4は (2016年時点で) 次世代のSnapdragon 835から利用可能
    • Qualcommの並列充電技術であるデュアルチャージを使用することで、QC3.0と比較して最大で20%高速・30%高効率で充電が可能
    • QC4はUSB Type-CとUSB PDのサポートを統合している
    • QC4は、Qualcoommが設計した独自の電力管理アルゴリズムであるINOV (Intelligent Negotiation for Optimum Voltage) の第3世代 (= INOV 3) を特徴としている
    • 最適なQC4パフォーマンスのために、SMB1380とSMB1381の2つのPower Management ICをリリース

  • Quick Charge 4に関するQualcomm公式文章をまとめると、
    • USB Type-CとUSB PDに準拠 (compliant)
      • 「QC4はQC2.0/3.0との後方互換性がない」と一般的に言われているのはこの辺の記述が端緒と思われる
      • QC4はUSB Type-C/USB PD compliantらしい → USB Type-CでのQC2.0/3.0は仕様違反 → 仕様違反となってしまうのでQC2.0/3.0には対応していないはず、という理論
      • QualcommはあくまでUSB Type-CとUSB PDに準拠していると自称しているだけであり、QC2.0/3.0との後方互換性については言及していない
      • なのでQC4がQC2.0/3.0との後方互換性を備えているかは不明
    • QC4対応デバイスは20mVまたはそれ以下の電力をリクエストできる
      • USB PD PPSっぽい気配
      • しかしUSB PD PPSだとはどこにも書かれていない

Quick Charge 4+

2016年11月にQuick Charge 4が発表されたあと、ロクに対応端末が出ないまま2017年6月にQuick Charge 4+が発表されました。

  • https://www.qualcomm.com/news/onq/2017/06/01/fast-charging-look-qualcomm-quick-charge-4-your-next-mobile-device
    • QC4リリース以降、Qualcommは新たな機能向上 (enhancements) を開発した
    • その新しい機能向上を包含しているデバイスやアクセサリの製造者のために、”plus” プログラムを策定した (Quick Charge 4+の “plus” という意味)
    • モバイルデバイス側では、QC4+はQC4の利点に加えて、さらに3つの機能向上が含まれる
      • デュアルチャージ: QC4ではデュアルチャージはオプションだったが、QC4+ではデュアルチャージが必須になった?っぽい
      • インテリジェントサーマルバランシング: デュアルチャージで最も発熱の少ない経路で充電する
      • 高度な保護機能: QC4+はケースとコネクターの両方の温度を監視し、USB Type-Cコネクターのショートや過熱、焼損を防ぐ
    • デュアルチャージ、インテリジェントサーマルバランシング、高度な保護機能により、QC4+はQC4と比較して最大で15%高速・30%高効率で充電できる
    • QC4+認定を取得したアクセサリはQC2.0/3.0との後方互換性を有している
    • nubia Z17はQC4+に対応する最初のデバイスである

  • Quick Charge 4+に関するQualcomm公式文章をまとめると、
    • QC4+認定を取得したデバイスは、QC4の要素に加えてデュアルチャージなど3つの機能改善を含んでいる
    • QC4+認定を取得したアクセサリはQC2.0/3.0との後方互換性がある
    • QC4+認定を取得したデバイスのQC2.0/3.0との後方互換性については言及なし
    • QC4では “USB Type-C and USB PD compliant” と明言されていたが、QC4+はプライマリの信号方式としてUSB PDをサポートしている (= USB PDを利用している) としか言及されておらず、 “USB compliant” とは説明されていない
    • QC4同様、USB PD PPSに関してはどこにも言及なし

Quick Charge 4/4+スマートフォンの実際の動作を確認

Qualcommのプレスリリースやブログ記事を漁った結果、以下の項目が分かったり分からなかったりしました。

  • 分かったこと
    • QC4/4+はUSB PDを利用している
    • QC4+認定アクセサリはQC2.0/3.0との後方互換性あり
  • 分からなかったこと
    • 巷ではQC4/4+はUSB PD PPSを利用しているとされているが、QualcommはPPSに関して一言も言及しておらず、本当にPPSを利用しているのか不明
    • QC4/4+認定のない充電器でもQC4/4+デバイスをQC4/4+で充電できるのかどうか (認定アクセサリ以外を使うとQC4/4+充電が有効にならないDRM的な仕組みが存在しているのかどうか)
    • QC4がUSB Type-C compliantなのかどうか (QC2.0/3.0非対応なのかどうか)

Razer Phone + Razer RC30-021501

Qualcommが明言してくれないので、実際のデバイスの挙動からQC4/4+の正体を探っていきます。まずはRazer Phoneです。

プレスリリースでも言及されていましたが、Razer Phone本体はQC4+認定を取得しています。

また、Razer Phone付属の24W USB-C ACアダプター RC30-021501に関しても同様にQC4+ certifiedです。

Razer RC30-021501はQC2.0/3.0 Class Aに対応しており、USB PDはFixed 5V/9V/12VとPPS 3.0-5.9V/3.0-11.0Vに対応しています。

Build Number: P-MR2-RC001-RZR-N.7083

このRazer RC30-021501でRazer Phoneを充電したところ、最大で約21Wが供給されていました。

この時のUSB PDのログは、まず最初にFixed 5.0V⎓3.0Aでネゴシエートし、その後はPPS 3.0-5.9V⎓3.0Aまたは3.0-11.0V⎓2.65Aでネゴシエートしながら充電が行われていました。特に不審なパケットはありませんでした。

Razer Phone + Belkin F7U073dq

続いて、ACアダプターをBelkin F7U073dqに変えてRazer Phoneを充電してみました。

Belkin F7U073dqはQC4/4+認定製品リストには載っていませんが (枝番違いのF7U073auとかF7U073krは載ってる) 、Qualcommに問い合わせたところF7U073dqもQC4+ certifiedだという旨の回答があったのでQC4+認定ACアダプターとして扱います。

Belkin F7U073dqはQC2.0/3.0 Class Aに対応しており、USB PDはFixed 5V/9V/12VとPPS 3.3-5.9V/3.3-11.0Vに対応しています。

Build Number: P-MR2-RC001-RZR-N.7083

Belkin F7U073dqでRazer Phoneを充電したところ、最大で約21Wが供給されていました。

この時のUSB PDのログは、まず最初にFixed 5.0V⎓3.0Aでネゴシエートし、その後はPPS 3.3-5.9V⎓3.0Aまたは3.3-11.0V⎓3.0Aでネゴシエートしながら充電が行われていました。特に不審なパケットはありませんでした。

Razer Phone + Anker A2711121

続いて、ACアダプターをAnker PowerPort III 45W Pod [A2711121] に変えてRazer Phoneを充電してみました。

Anker PowerPort III 45W Pod レビュー:持ち運びしやすいオールラウンダー
AnkerのUSB PD 45W充電器「PowerPort III 45W Pod」 (型番: A2711121) を購入したのでレビューします。

Anker A2711121はQC4/4+認定を取得していないただのUSB PD PPS対応ACアダプターですが、ただのUSB PD PPS対応ACアダプターとQC4/4+認定ACアダプターで、充電速度やUSB PDのパケットに違いがあるのか調べる目的で使いました。

Anker A2711121はQC2.0/3.0 Class AとApple 2.4Aに対応しており、USB PDはFixed 5V/9V/15V/20VとPPS 3.3-16.0V/3.3-21.0Vに対応しています。

Build Number: P-MR2-RC001-RZR-N.7083

Anker A2711121でRazer Phoneを充電したところ、最大で約21Wが供給されていました。

この時のUSB PDのログは、まず最初にFixed 5.0V⎓3.0Aでネゴシエートし、その後はPPS 3.3-16.0V⎓3.0Aでネゴシエートしながら充電が行われていました。特に不審なパケットはありませんでした。

Redmi K20 Pro + Razer RC30-021501

続いて試すスマートフォンはRedmi K20 Proです。Redmi K20 ProはXiaomiがQC4+対応を謳っており、QC4+認定製品リストにも掲載されています。

MIUI 10.3.6.0

Razer RC30-021501でRedmi K20 Proを充電したところ、最大で約23Wが供給されていました。

この時のUSB PDのログは、まず最初にFixed 5.0V⎓3.0Aでネゴシエートし、その後はPPS 3.0-5.9V⎓3.0Aまたは3.0-11.0V⎓2.65Aでネゴシエートしながら充電が行われていました。特に不審なパケットはありませんでした。

Redmi K20 Pro + Belkin F7U073dq

MIUI 10.3.6.0

Belkin F7U073dqでRedmi K20 Proを充電したところ、最大で約17Wが供給されていました。

Razer RC30-021501で充電した時よりも供給される電力が小さいですが、理由は不明です。当然ですがバッテリー残量は十分に減らしていたため、恐らくXiaomiの実装が悪いだけだと思われます。 (なぜか3.3-11.0V⎓3.0Aじゃなくて3.3-11.0V⎓2.0Aでネゴってるし)

この時のUSB PDのログは、まず最初にFixed 5.0V⎓3.0Aでネゴシエートし、その後はPPS 3.3-5.9V⎓3.0Aまたは3.3-11.0V⎓2.0Aでネゴシエートしながら充電が行われていました。Alartコマンドが飛んでいるのが謎ですが、それ以外に不審なパケットはありませんでした。

Redmi K20 Pro + Anker A2711121

MIUI 10.3.6.0

Anker A2711121でRedmi K20 Proを充電したところ、最大で約17Wが供給されていました。

Belkin F7U073dqで充電した場合と同様に、Anker A2711121でもRazer RC30-021501で充電した時よりも供給される電力が小さいですが、理由は不明です。これに関しても恐らくXiaomiの実装が悪いだけだと思われます。 (これもなぜか3.3-16.0V⎓3.0Aではなく3.3-16.0V⎓2.0Aでネゴってるので)

この時のUSB PDのログは、まず最初にFixed 5.0V⎓3.0Aでネゴシエートし、その後はPPS 3.3-16.0V⎓2.0Aでネゴシエートしながら充電が行われていました。特に不審なパケットはありませんでした。

QC4+スマホの充電まとめ

ということで、QC4+認定スマートフォンであるRazer PhoneとRedmi K20 ProをQC4+認定ACアダプターやUSB PD PPS対応ACアダプターで充電し、その時のUSB PDのログを確認してみました。

プレスリリース等でQC4/4+が電力のハンドシェイク方式としてUSB PDを使用していることは明言されており、その上で、PPSを使用しているかどうかや、QC4/4+認定ACアダプター以外ではQC4/4+充電が有効にならない (QC4/4+認定ACアダプター以外では充電が遅くなる) ような仕組みが存在するかどうかが不明でしたが、Razer PhoneとRedmi K20 Proの挙動を見る限りでは

  • QC4/4+はUSB PD PPSを利用している
  • QC4/4+スマホを充電する場合に、QC4/4+認定ACアダプターでないとQC4/4+充電が有効にならないような仕組みは存在していない

と考えられます。

つまり、QC4/4+スマホを充電する際はQC4/4+認定ACアダプターでなくともOKで、ACアダプターがUSB PD PPSに対応していればQC4/4+で充電できるはずです。

Quick Charge 4は本当に後方互換性がないのか

次は「QC4対応製品は本当にQC2.0/3.0との後方互換性がないのか」という点です。

QC4とQC4+の違いを説明する際に、「QC4はQC2.0/3.0との後方互換性なし、QC4+はQC2.0/3.0との後方互換性あり」という説明がされることがあります。恐らく、QC4が発表された時のOnQ Blogの記事に “USB Type-C and USB PD compliant” という記述があり、この記述を読んだ誰かが「QC4はQC2.0/3.0と後方互換性なし」という風に言い始めてそれが広まったのだと思われますが、果たして本当にQC4対応製品はQC2.0/3.0に対応していないのでしょうか。

QC4デバイスの場合

まずはQC4スマートフォンについてです。Qualcommがこんな表を出しています。

この表によると、QC4スマートフォンをQC2.0/3.0アクセサリで充電した場合はQC2.0/3.0の速度で充電されるらしいです。つまり、QC2.0/3.0に対応しているということになります。


念のため、実際のデバイスの挙動も確認してみます。機種はZenFone 6です。Quick Charge認定製品リストとASUSのWebサイトの両方でQC4対応とされています。

こちらのサイトによると、PowerCore II Slim (PowerCore II Slim 10000?) のUSB-AポートからZenFone 6を充電すると約9Vで電力が供給されることが報告されています。

仮にこのモバイルバッテリーがPowerCore II Slim 10000だとして、PowerCore II Slim 10000のUSB-AポートはPowerIQ 2.0対応です。詳しい仕様はこの記事で解説しましたが、PowerIQ 2.0はUSB BC DCP・Apple 2.4A・Quick Charge 2.0/3.0・Samsung AFC・Huawei FCPに対応するACアダプター・モバイルバッテリーのスペックです。このうちApple 2.4A・AFC・FCPはそれぞれのメーカーの独自規格であるためZenFone 6が対応している可能性はほぼゼロであり、USB BC DCPもVBUSの電圧が9Vに上がるような充電規格ではないため、ZenFone 6を充電した際に使用されていた充電規格はほぼ間違いなくQuick Charge 2.0/3.0です。

そのため、「QC4スマートフォンはQC2.0/3.0との後方互換性あり」としているQualcommの表の通りの動作をしていたということになります。

QC4アクセサリの場合

続いて、QC4アクセサリのQC2.0/3.0との後方互換性です。

QC4アクセサリでQC2.0/3.0デバイスを充電した場合は “Standard charging” になるとされています。すなわち、QC4アクセサリはQC2.0/3.0に非対応です。

QC4アクセサリについてもQC4スマートフォンと同様に実際の製品の動作を確認したいところですが、そもそもQC4認定アクセサリは製品化されていないため、実機での動作確認は不可能です。

QC4の後方互換性まとめ

QC4の後方互換性についてまとめます。

QC4スマートフォンについてはQulacommが公式にQC2.0/3.0と後方互換性ありとしており、実際のQC4認定スマートフォンでもQC2.0/3.0で充電できることが確認できました。

一方で、QC4アクセサリについてはQC2.0/3.0との後方互換性がないとされています。本来であれば実機の動作も確認すべきですが、QC4認定アクセサリは製品化されていないため、確認は不可能です。

まとめ

それでは記事全体を総括します。

  • QC4/4+はUSB PD互換である
  • QC4/4+はUSB PD PPSを利用している
  • QC4/4+充電に関して、QC4/4+認定ACアダプターでなければ充電が遅くなるようなDRM的な仕組みは設けられておらず、USB PD PPSに対応していて相応の電力を出力できるACアダプターであればQC4/4+対応スマートフォンをQC4/4+認定ACアダプターと同等に充電が可能
  • QC4スマートフォンはQC2.0/3.0との後方互換性があり、QC4アクセサリは後方互換性がない (ただしQC4アクセサリはそもそも製品化されていない)

記事の冒頭に書いた、Quick Charge 4/4+に関する疑問には以下のように回答できます。

  • 「ACアダプターがUSB PD PPS対応 = QC4/4+対応スマホをQC4/4+で充電できる」という風に一般的には語られているが、それは本当なのか?
    • 正しい。USB PD PPSに対応したACアダプターであればQC4/4+対応スマートフォンをQC4/4+相当で充電できる
  • Quick Charge 4はQuick Charge 2.0/3.0との後方互換性がないと言われているが、それは本当なのか?
    • 誤り。QC4スマートフォンはQC2.0/3.0との後方互換性を備えている。そのため、「QC4はUSB Type-C compliant」という言説も同様に誤り。
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