Nintendo Switch (2019) を買ったので、付属してきたACアダプターの仕様を調べてみました。
簡単にまとめると
- Nintendo SwitchのACアダプターはなぜかUSB Type-Cポートに刺さってしまう謎のプラグ形状をしている (任天堂はUSB Type-Cとは言っていない)
- Nintendo SwitchのACアダプターはなぜかUSB PDパケットアナライザでキャプチャ・デコードできてしまう謎のシリアル通信を行っている (任天堂はUSB PD対応とは言っていない)
- その謎のシリアル通信は、USB PDの仕様に照らし合わせると一部仕様に準拠していない箇所がある
- そのため、SwitchのACアダプターは普通のUSB Type-C ACアダプターよりも互換性が低い可能性がある
- 以上の理由により、SwitchのACアダプターはSwitch以外の充電には使用しないことが推奨される
- 仮にSwitchのACアダプターでSwitch以外を充電してしまっても、故障させる可能性は低い
今回使用したACアダプター
今回使用したACアダプターはNintendo Switch (2019) に付属してきたもので、モデル番号は「HAC-002(JPN)」です。 定格出力は「5.0V/1.5A」と「15.0V/2.6A」の2系統が記載されています。
Nintendo Switchは2019年にバッテリー持続時間の増えた新モデルが出ましたが、 新モデル・旧モデルともにACアダプターのモデル番号は「HAC-002(JPN)」で変更はありません。ただし複数のサプライヤーが供給しているらしく、MITSUMIのもの、ZEBRAのもの、Deltaのものを確認しています。そのため、同じ「HAC-002(JPN)」であっても若干の挙動の違いが存在する可能性があります。 (とは言ってもNintendo Switchと組み合わせて使う分には全て同じ挙動をするはずですが)
USB Type-CだけどUSB Type-Cじゃないプラグ
上記の画像の通り、Nintendo Switch本体に関しては「USB Type-C」と明言されています。
一方で、Switch本体以外のドックやACアダプターに関しては任天堂は一言も「USB Type-C」とは言っていません。「ACアダプター接続端子」等の別の表現でボカされています。
普通に考えれば「Switch本体がUSB Type-Cなら、そこに接続されるドックやACアダプターもUSB Type-Cやろ」と思ってしまいますが、何らかの事情で敢えてUSB Type-Cとは言わないようにしているようです。
プラグに刻印されているロゴも、USBではなくNintendoのものが刻印されています。
USB PD(仮)な謎の通信
それではもう少し内部的なことを見ていきます。
以下の画像は、Nintendo SwitchのACアダプターに何らかのデバイスを接続すると送信されるパケットをキャプチャ・デコードしたものです。
任天堂はUSB PD対応とは言っていませんが、SwitchのACアダプターはUSB PDパケットアナライザでキャプチャ・デコードできてしまう謎のシリアル通信をCCピン上で行っています。
この画像はキャプチャしたSource_Capabilitiesメッセージです。ACアダプターの記載と同じ「5.0V/1.5A」「15.0V/2.6A」のPDOを送信していることが分かります。
USB PDの仕様に照らし合わせてみる
任天堂はUSB PDと明言していないものの、SwitchのACアダプターはUSB PDパケットアナライザでキャプチャ・デコードできてしまう謎の通信をしているので、USB PDの仕様に照らし合わせてみます。
パワールール
USB PDでは互換性を確保するために「パワールール (Power Rules) 」というものが規定されていて、その中で「最低限対応していなければならない出力」に関する記述があります。
ワット数 | 5V | 9V | 15V | 20V |
---|---|---|---|---|
0〜15W | (ワット数÷5)A | 必須ではない | 必須ではない | 必須ではない |
15〜27W | 3A〜5A | (ワット数÷9)A | 必須ではない | 必須ではない |
27〜45W | 3A〜5A | 3A〜5A | (ワット数÷15)A | 必須ではない |
45〜60W | 3A〜5A | 3A〜5A | 3A〜5A | (ワット数÷20)A |
60〜100W | 3A〜5A | 3A〜5A | 3A〜5A | 3A〜5A |
表とグラフではやや分かりにくいので、具体例を出してみます。
例えば最大出力が20Wの電源の場合、少なくとも
- 5.0V/3.0A (15W)
- 9.0V/2.22A (20W)
の出力に対応していなければなりません。
もう1つ例を出してみましょう。例えば最大出力が87Wの電源は、
- 5.0V/3.0A (15W)
- 9.0V/3.0A (27W)
- 15.0V/3.0A (45W)
- 20.0V/4.35A (87W)
の出力に対応していなければなりません。
「1つの電圧にだけ対応していれば良いんじゃないの?」と思うかもしれませんが、互換性を確保するために、低い電圧にも対応することが定められています。
Switchの純正ACアダプターは……
話をSwitchのACアダプターに戻します。
上で書いたように、SwitchのACアダプターは5.0V/1.5Aと15.0V/2.6Aの2系統の出力に対応しています。つまり、最大39Wの電源となります。
これを先程のグラフに当てはめると、以下のようになります。
このグラフの通り、39WのUSB PD電源は5.0V/3.0A、9.0V/3.0A、15.0V/2.6Aの3系統を出力できなければなりません。
しかしながら、SwitchのACアダプターは5.0V/1.5Aと15.0V/2.6Aしか出力できません。つまり、USB PD的には仕様に準拠していないということになります。 (任天堂はUSB PDとは言ってないけど)
Switch以外を接続すると壊れる?
USB PDの仕様に一部準拠していないと知って、1番気になるのは「Switch以外を充電すると故障するの?」的なことだと思います。
結論から言うと、故障などの可能性については心配しなくていいです。なぜなら、USB PDは以下のような流れで行われるからです。
- 電源側の機器が「○ボルト△アンペア出力できます」と通知する
- 受電側の機器が「○ボルト△アンペアください」とリクエストする
- 電源側はそのリクエストを確認して、問題がなければ○ボルトを出力する
USB PDでは、受電側の機器から「○ボルト欲しいです」とリクエストがあった場合にのみ、9Vや15V、20Vといった高い電圧が出力されるようになっています。リクエストがなければ電圧は5Vのままなので、SwitchのACアダプターにSwitch以外を接続しても、それが故障に繋がる可能性は限りなく低いです。
刺さるからといってSwitch以外を充電するのはオススメしない
「別にSwitchのACアダプターでSwitch以外を充電しても問題ないんだ。じゃあスマホもiPadも全部SwitchのACアダプターで充電しちゃおう」と思うかもしれませんが、SwitchのACアダプターでSwitch以外を充電するのも、それはそれでオススメはしません。
なぜかというと、理由の1つ目は「互換性」です。
USB PDの5V・9V・15V・20Vという複数の電圧は、受電側の機器が自身に最適な電圧を選択できるように用意されています。例えばスマートフォンでは20Vよりも5Vや9Vの方が適していますし、逆にノートPCでは5Vよりも15Vや20Vといった高い電圧のほうが効率が良いわけです。
ところが、SwitchのACアダプターは5Vでは1.5Aまでしか出力できず、必要なはずの9Vも丸々欠けています。出力できる電圧のバリエーションが少ないということは、それだけ受電側の機器の選択肢が少ないということになります。その結果、Switch以外を充電すると「充電が遅い」とか「そもそも充電できない」ということが発生する場合があります。
オススメしない2つ目の理由は、「普通のUSB PD ACアダプターとはちょっと異なる挙動をしているから」です。
話すと長いので詳細は別の記事に書きましたが、SwitchのACアダプターでPixel 3を充電することができませんでした。そして、その原因はSwitchのACアダプターっぽいということも分かりました。
このように充電できないケースが稀にあるため、Switch以外を充電するのは基本的にオススメしません。
ネットサーフィンをしていると「SwitchのACアダプターで○○を充電できた!」的な記事も見かけますが、それはたまたま運が良かっただけです。非常時ならともかく、日常的にSwitchのACアダプターでSwitch以外を充電するのはあまり好ましくありません。
もし1つのACアダプターでSwitchやスマートフォン、ノートPCなど全部まとめて充電したいのであれば、SwitchのACアダプターではなく、USB PDの仕様に準拠した別のACアダプターを使うことをオススメします。