iPhone XやiPad Pro 10.5などの「USB PD対応Lightningデバイス」で、USB PD充電に失敗する場合がある件について解説します。
はじめに
AmazonでUSB Type-C ACアダプターのレビューを見ていたら、こんな報告を見つけました。
USB Type-C ACアダプターでiPad Pro 12.9 (2017) を充電したところ、数時間経っても数パーセントしか充電されていなかったらしいです。
どんな現象が起きるのか
百聞は一見に如かずということで、どんな現象が起きるのかお見せします。以下の画像は、USB PD対応ACアダプターでiPad Pro 10.5を充電した際のケーブルの電圧や電流を測定したものです。 (ケーブルはApple純正のUSB-C – Lightningケーブル A1656)
USB PDのネゴシエーションは正常に完了しているので電圧が15Vまで上がっていますが、電流は0.1Aに満たない程度しか流れていません。もちろん、この状態で充電を続けてもiPadの電池残量はロクに増えません。
しかも厄介なことに、USB PDのネゴシエーションは問題なく完了しているため、iPadに表示される電池アイコンは「充電中」のものに切り替わります。つまり、見た目的には普通に充電されているように見えます。
回避方法
見た目では区別のつかないこの現象ですが、ちょっとしたテクニックで回避できます。
- まずiPhone・iPadにケーブルを挿す
- そのあと、ケーブルをACアダプターに接続する
という順番で接続すれば、この現象は発生しないはず……です。
この現象の原因
この現象の原因は、ケーブルとACアダプターの両方にあると予想しています。
まず、USB-C – LightningケーブルはVBUS Hotケーブルであるという事実があります。
内部でCCがプルダウンされており、Lightning側に何も接続していない状態でもACアダプターからはデバイスが接続されているかのように見えるため、ACアダプターにケーブルを接続しただけでVBUSに5Vが印加されます。似たようなものとしてはUSB-C – MicroUSBケーブルが同様の仕様となっており、この実装自体には何も問題はありません。何よりLightningなデバイスはUSB PDに対応している機種・していない機種の両方があるため、当然と言える実装です。
USB-C – MicroUSBケーブルとUSB-C – Lightningケーブルの違いは「Hard Resetが起きるかどうか」です。USB-C – Lightningケーブルで充電する場合、Lightning側にデバイスを接続するとHard Resetが行われます。
Hard Resetが発生する理由は以下のものだと推測しています。
USB PD対応ACアダプターは、CCがプルダウンされてから (≒デバイスが接続されてから) 大体5秒経ってもUSB PDの応答がない場合は「このデバイスはUSB PDに対応してないな」と判断し、USB PDのパケットを送るのを止めます (NoResponceTimer) 。しかしながら、USB-C – LightningケーブルはLightning側に何も接続していない状態でもACアダプターからはデバイスが接続されているかのように見えるため、iPhone・iPadが接続される前にUSB PDのパケットを送るのを止めてしまう可能性があります。その状態でiPhone・iPadを接続してもUSB PDのネゴシエーションが行われないため、USB PDによる急速充電が有効になりません。そのため、これを回避するためにHard Resetが発生しているものと考えられます。 (デバイスが発生させているのか、それともケーブルに何か小細工がされていてケーブルが発生させているのかは不明)
しかしながら、一部のACアダプターと組み合わせた場合では「Hard Resetが起きるとUSB PDのネゴシエーションは正常に完了して電圧は昇圧するものの、電流がほとんど流れていない状態」になることがありました。 (Hard Resetが原因というより、約0.5秒という短いスパンでVBUSのオン・オフが発生することが原因?)
これが「見た目では普通に充電されているように見えるのに、なぜか電池残量が増えない現象」の正体です。
余談ですが、USB-C – LightningケーブルでiPhone・iPadを充電すると「フォン」という接続音が2回鳴ることがありますが、これもHard Resetが原因と思われます。 (接続した時点で5Vが印加されているので鳴る → Hard Resetが行われて再接続した時に再度鳴る)
これらの現象はLightningでUSB PDを使えるようにしなければ起きなかったはずなので、良くも悪くもLightningでUSB PDを利用できるようにしてしまったAppleの功罪と言えるでしょう。
所感
USB PD対応機種ではUSB PDで動作でき、なおかつUSB PD非対応の古い機種でも問題なく動作するという、この2つを両立させているUSB-C – Lightningケーブルはなかなかの無茶をしていると思います。
「こんなアクロバティックなことをするぐらいならLightningなんかさっさと捨てて、早くUSB Type-Cに移行すればいいのに……」という印象です。