USB Type-CでQualcomm Quick Charge等の急速充電を行うことについて、2021年1月時点での個人的な見解を書いてみます。
はじめに
当サイトでは以前、以下のような記事を書きました。

タイトルの通り、「一部のQuick Charge対応USB Type-C ACアダプターがE-Markedケーブルに内蔵されているeMarkerを破損させるかもしれないから気をつけましょう」という内容の記事です。
記事の書いた2017年から約3年半が経ち、USB Type-Cを取り巻く状況は色々と変わりました。この記事の内容自体が間違っているわけではありませんが、2021年の今の状況に即しているかというと正直そうではないので、改めてUSB Type-CでのQuick Chargeに関する見解を書こうと思った次第です。
USB Type-CでのQuick Chargeが必ず危険なわけではない
まず最初に言っておきたいのが、USB Type-CでのQuick Chargeが必ずケーブルの破損等を招くわけではないということです。
確かにUSB Type-CでのQuick Charge 2.0/3.0はUSB Type-C仕様違反です。ただ、それが一律100%危険かというと、それはNoです。eMarkerの破損といった事態を引き起こす可能性があるのは、様々なシチュエーションの中のごく一部です。
そもそもの話として、この件の根本的な原因はQuick Chargeではありません。eMarkerに電力を供給するピンであるVconnに仕様以上の電圧が印加されることが直接的な原因あり、ではなぜVconnに仕様以上の電圧が印加されるかと言うと、ケーブル側Vconnと接続するACアダプター側のCCがVBUSと同じ電源から取るようになっていて、Quick Charge等が有効になるとVBUSと一緒にCCの電圧も昇圧するからです。そのため、充電規格がQuick ChargeではなくUSB PDだったとしても、VBUSとCCが同じ電源から取るようになっているのであれば、同様のリスクがあります。
逆に、Quick Charge 2.0/3.0に代表される非USB系の充電規格を使用したとしても、CCの電圧が適切な範囲内に収まっているのであれば、Quick Chargeだろうが何だろうがそれが原因でeMarkerを破損させる恐れはないと言えます。
USB Type-C仕様違反品が生まれる背景
では、なぜCCに仕様以上の電圧を加えるような代物が爆誕してしまったのかというと、その原因の1つは「ACアダプターのメーカーがUSB Type-C周りを自分たちで実装したから」だと私は考えています。
まず前提として、この世の中には「USB充電器用のコントローラー」というものが存在しています。例えば以下のようなものです。
こういったコントローラーは1種のマイコンで、「Quick Charge 2.0のシグナルが送られてきたぞ」といったことを判別し、USBポートの各端子 (VBUS, D+/D-, CC等) に掛かる電圧を制御したりします。
コントローラーには「USB Type-C対応のもの」「USB Type-Cに非対応のもの (USB Standard-A用のもの) 」の2種類があります。コントローラーがUSB Type-Cに対応しているのであれば、USB Type-Cに特有のCC (Configuration Channel) 周りも含めてコントローラーに任せることができますが、もしUSB Type-C非対応のコントローラーを使ってUSB Type-C ACアダプターを設計する場合、USB Type-Cに特有のCC周りはメーカーが自分たちで実装する必要があります。
メーカーが独自にUSB Type-C周りを実装した場合、USB Type-C製品としても良し悪しがメーカーの力量に左右されることになります。それなりのメーカーがちゃんとやればコントローラーなしでもそれなりのものを作れますが、逆にテキトーにやろうと思えばいくらでもテキトーすることができてしまいます。
その「テキトー」の最たる例が、2017年の記事で取り上げたAUKEY PA-Y2です。USB Standard-A ACアダプター用の回路をただUSB Type-Cに付け替えただけとしか思えない挙動をしており、やっつけ仕事とすら呼べない代物です。
最近のACアダプターはみんなUSB Type-C対応のコントローラーを使っている (はず)
このように、
- USB Type-Cコントローラーを使わずに
- メーカーが自分たちでUSB Type-C周りを設計している
というのが仕様違反なUSB Type-C製品の典型的なパターンです。
これを踏まえて、2017年と2021年の状況を比べてみます。2016年、2017年頃は「USB Type-CだけどUSB PDには対応しておらず、USB Type-C CurrentやQuick Chargeで充電する」というようなACアダプターが少なからずありました。一方、2021年の現在ではUSB Type-C ACアダプターはほぼ100% USB PDに対応するようになりました。
そしてこの「ほぼ100% USB PDに対応するようになった」というのがUSB Type-C製品的に大きな違いをもたらします。
もしUSB PD非対応の場合、USB Type-C周りをメーカーが自分で実装すればUSB Type-C非対応のコントローラーを使ったとしてもUSB Type-C ACアダプターを作ることが可能です。 (そのACアダプターがUSB Type-Cの仕様に沿ったものになるかどうかはともかく)
一方USB PD対応ACアダプターの場合、USB Type-C対応コントローラーを使うことが実質的に必須となってきます。というのも、ご存知のようにUSB PDはUSB Type-Cが前提となっているため、USB PD対応コントローラーは充電規格としてのUSB PDやQuick Charge、AFC、FCP等を制御するという従来の機能に加えて、そのACアダプターをUSB Type-C製品として動作させる「USB Type-Cコントローラー」としての機能も持っているからです。なので、USB PDに対応させようと思ったら必然的にUSB Type-C対応のコントローラーを採用することになります。
こういったUSB Type-C対応のコントローラーが使用されることによって、USB Type-C製品としての素性はかなりマシになります。もちろん、USB Type-Cコントローラーを使ったからと言ってそれだけで全部がパーフェクトになるわけではありませんが、普通は独自に実装するよりもコントローラーに任せたほうがマシな製品が出来上がります。
USB PD対応が当たり前になったここ1〜2年は、VBUS HotだとかCCが短絡されて1つのRpでプルアップされているといったしょうもない仕様違反の疑いがあるACアダプターはほとんど見かけていません。これは、ACアダプターのメーカーがUSB Type-C周りを自分たちで実装するのではなく、USB Type-Cコントローラーを使用するようになったおかげだと思っています。 (ただ単に私がハズレを引かなくなっただけかもしれないですが)
まとめ
最近のUSB Type-C ACアダプターはみんなUSB PDに対応しており、USB Type-C対応のコントローラーが搭載されているため、一昔前と比べて状況的にはかなりマシになっています。
Quick Chargeに対応しているUSB Type-C ACアダプターは今もたくさん存在していますし、これからもたくさん出てくると思いますが、ほぼ100% USB PDに対応するようになった現状を踏まえると、それこそケーブルのeMarkerを破損させる恐れがあるような粗悪品に出くわす可能性はかなり低いと考えられます。