Apple デュアルUSB-Cポート搭載35W電源アダプタ 仕様調査・レビュー

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AppleのデュアルUSB-Cポート搭載35W電源アダプタ (35W Dual USB-C Port Power Adapter) を購入したので仕様を調べてみました。

対象の製品

今回レビューするのは以下の製品です。

重量は115gです。30W級にしてはやや重いです。手に持ってみても少し重量感を感じます。 (参考: 2ポート30WのInnergie C3 Duoは68g)

35W USB-C Power Adapter
Designed by Apple in California
Assembled in China
Model A2676
35.0W 27.0W 15.0W
Input: 100-240V〜 1.0A (1,0A) 50-60Hz
(USB PD) Output 1 or 2: 20.0V⎓1.75A or 15.0V⎓2.33A or 9.0⎓3.0A or 5.0V⎓3.0A
Total Max. Power: 35W
FLEXTRONICS
PSEマーク: ひし形 / UL Japan / Apple Japan

USB PD周りの仕様調査

1ポートのみ使用

Apple A2676は最大35WのUSB PDに対応しています。

USB PD以外にはUSB BC 1.2 DCPに対応しています。

2ポート同時使用

一方のポートにUSB PD非対応のデバイスが接続されている場合、もう片方のポートは最大27.5W出力となります。

「USB PD非対応」といってもUSB BC 1.2 DCPだとかUSB Type-C Current 1.5AだとかUSB Type-C Current 3Aだとか色々ありますが、USB PD非対応のデバイスは一律7.5Wの負荷として扱われるようです。 (詳しくは後述)

両方のポートにUSB PD対応デバイスが接続されている場合、それぞれのポートは最大17.5W出力となります。

いくつかパターンを試してみましたが、両方のデバイスがUSB PDに対応している場合、電力の配分は17.5W + 17.5Wで固定のようでした。

挿抜が発生してもリセットは起きない

複数ポートを備えているUSB Type-C充電器の中には、いずれかのポートで挿抜が発生すると他のポートでリセットが発生する (出力が一瞬停止してVBUSが0Vになった後、再計算されたワット数で再起動する) ものがあります。Apple A2676では挿抜が発生した場合に別のポートがどのような動作をするのか調べました。

結論としては、Apple A2676では片方のポートで挿抜が発生しても、もう片方のポートでリセットは発生しません

片方のポートにUSB PD非対応のデバイスが接続されている場合、もう片方のポートが最大27.5W出力になるのは上記の通りです。ポートAでUSB PD出力を行っている最中に、ポートBにUSB PD非対応のデバイスが接続された場合、ポートAでは出力はストップせず、最大27.5WでUSB PDの出力が再通知されます (27.5Wで再計算されたSource_CapabilitiesメッセージがSinkへ送信されます) 。そして、この状態でポートBからデバイスを外した場合、ポートAではリセットは発生せずに35WでUSB PDの出力が再通知されます。

USB PD対応デバイスを接続した場合も同様で、ポートAでUSB PD出力を行っている最中にポートBにUSB PD対応デバイスが接続された場合、ポートAでは出力がストップすること無く最大17.5WのUSB PD出力が再通知されます (17.5Wで再計算されたSource_CapabilitiesメッセージがSinkへ送信されます) 。この状態でいずれかのポートからデバイスを外した場合、もう片方のポートではリセットは発生せずに35WでUSB PDの出力が再通知されます。

USB Type-C Currentは最大1.5A

USB PD非対応デバイスが一律7.5Wの負荷として計算されているような挙動が気になったため、もう少し詳しく調べました。

5V⎓3Aでネゴシエーションが行われた場合、CCの電圧はvRd-3.0のレンジでした。この状態で負荷を掛けると、約3.7AでOCPが動作して出力がシャットダウンされました。

一方でCCを5.1kΩでプルダウンしただけの場合、CCの電圧はvRd-1.5のレンジでした。この状態で負荷を掛けると、約2.1AでOCPが動作して出力がシャットダウンされました。つまり、間違いなくUSB Type-C Current 1.5Aのポートとして動作をしているということになります。


USB Type-C Currentが最大1.5Aとして動作している点が気になったため、USBの仕様を確認しました。

USB Type-Cの仕様には以下のような記載があります。

USB Type-C Cable and Connector Specification, Release 2.2, Section 4.6.2.4

充電器だけでなくPCのUSB Type-Cポートなど出力が小さいポートのことも考慮されているため、5V3A以上・5V1.5A以上、5V1.5A未満の3パターンが記載されていますが、大抵のUSB PD充電器は15W以上出力できるため、1番目の5V at 3A or greater shall advertise USB Type-C Current at the 3A levelに該当します。もちろん、Apple A2676も35W出力なので1番目に該当します。なので、原則としてCCの電圧はUSB Type-C Current 3Aのレンジでなければなりません。

ただし例外があり、Multi-Port Shared Capacity Chargerは最初にUSB Type-C Current 1.5Aをアドバタイズし、その後で3Aをアドバタイズしても良いと記載されています。Multi-Port Shared Capacity Chargerというのは、複数ポートで出力容量を共有していてポートAを使用するとポートBが出力できる最大の電力 (ワット数) が小さくなるようなタイプの充電器のことです。Apple A2676もこれに該当します。

Multi-Port Shared Capacity ChargerについてはSection 4.8.6.2を参照しろと書いてあるので見てみると、以下のようなことが記載されています。

USB Type-C Cable and Connector Specification, Release 2.2, Section 4.8.6.2

赤枠で囲った部分を読んでみると、PD Contractではない (PD動作中ではない) 場合はshared USB Type-C Current Sourceのルールに従うように書かれています。ただし、「それぞれのポートで15Wをアドバタイズできるだけの出力容量が残っている場合を除いて (unless there is sufficient remaining power for each port to advertise 15W)」という条件がついているため、今回のApple A2676はこれには該当しないということになります。

一応shared USB Type-C Current Sourceのルール (おそらく赤枠の下にあるAll exposed USB Type-C Current ports〜の部分のこと) も含めて一通り確認しましたが、「最低7.5W (5V 1.5A) をアドバタイズしなさい」ということは複数箇所 (Section 4.8.6.1など) で記載があったものの、Apple A2676のような状況の場合に最低5V 3Aをアドバタイズしなさいというような内容の記載は見つかりませんでした。

そのため、USB Type-C Currentが3Aではなく1.5AとなっているApple A2676の仕様は、USB Type-Cの仕様に違反しているわけではないようです。 (Multi-Port Shared Capacity Chargerの場合、最低1.5A出力できればOKで3.0Aはオプションのようです)

まとめ

Apple A2676の仕様は以下の通りです。

  • USB PDは最大35W
  • USB PD非対応のデバイスを充電する場合は最大7.5W (もう片方のポートは最大27.5W)
  • 2ポート両方でUSB PD対応デバイスを充電した場合は17.5W + 17.5W
  • 一方のポートで挿抜が発生しても、もう片方のポートでリセットは発生しない

いろいろな意味でAppleらしい充電器というのがApple A2676の印象です。

人によって好き嫌いはあるでしょうが、Appleがユーザーエクスペリエンスを非常に重視しているのは多くの人が同意する部分だと思います。複数ポートで出力を共有しているタイプのUSB Type-C充電器は以前から存在していますが、一部の製品以外は「挿抜が発生すると他のポートでリセットが発生する」という欠点があります。この欠点はUX的にマイナスになることはあれどプラスになることはないわけですが、こういった欠点が発生しないソリューションが登場するのを待ってから複数ポートのUSB Type-C充電器を出したあたりはUXを重視するAppleらしいなと思います。

また、ポート間の電力の割り振りもAppleらしくシンプルです。サードパーティの充電器には、ポート間に性能差があったり10〜20個もの電力割り振りパターンが用意されていて使う前からげんなりするようなものも少なくないですが、Apple A2676はどちらのポートも同じ性能なので、何も考えずにとりあえず繋いでおけばOKという気楽さが良いです。

一方で、お値段の方もAppleらしいものとなっており、今回レビューしたデュアルUSB-Cポート搭載35W電源アダプタ、それから兄弟的なモデルのデュアルUSB-Cポート搭載35Wコンパクト電源アダプタ、どちらも税込7,800円という値段となっています。動作的にはしっかりしているので、買って失敗する・思っていたのと違った、ということはないと思いますが、やはりちょっと高いのは否めません。ただ、サードパーティの複数ポート充電器 (特にMulti-Port Shared Capacity Charger) は玉石混交というか、USB Type-C製品として正しい挙動をしているものはゼロもしくはほぼゼロなので、「正しいUSB Type-C製品」が欲しい人はApple デュアルUSB-Cポート電源アダプタが選択肢となるでしょう。