InateckブランドのUSB PD対応45W ACアダプタ (型番: UC1002) を購入したので、レビューを行います。
対象の製品
Omarsの45W ACアダプタも、本記事でレビューしているInateckの45W ACアダプタと同じ「ASSA73a-05091520300」という型番なので、ブランドが違うだけの同一製品である可能性が非常に高いです。
クイックレビュー
パッと見はマトモっぽいものの、細かいところで怪しい挙動をしているACアダプタです。故障等を引き起こす可能性は低いですが、将来的に一部の機器と互換性の問題を引き起こす可能性があります。
以上の理由により、このInateckの45W ACアダプタはオススメはしません。
開封・製品画像
- SWITCHING ADAPTER
- UCC1002/ASSA73g-05091520300
- MODEL: ASSA73a-05091520300
- INPUT: 100-240V~50/60Hz 1.2A
- OUTPUT: 5.0V==3.0A or 9.0V==3.0A or 15.0V==3.0A or 20.0V==2.25A
- PSEマーク: あり (ひし形 / JET / Inateck株式会社)
- AQUIL STAR PRECISION INDUSTRIAL (SHENZHEN) CO., LTD.
USB-IF認証について
製品外装には型番ぽい文字列が色々書かれていてどれが型番なのか分かりにくいですが、「ASSA73a-05091520300」でUSB-IF認証済みACアダプタのリストを検索すると1件ヒットしました。(Test IDは1000087)
45Wという出力や、Aquil Star Precision Industrial (Shenzhen) Co., Ltd.という製造元が一致していることから、今回レビューを行っているInateck UCC1002と、リストに載っているASSA73a-05091520300は同一製品であると考えられます。
販売に当たって「USB-IF認証済み」などとは謳われていませんが、Inateck UCC1002はUSB-IF認証済みACアダプタと見なして良さそうです。
USB PD
Inateck UCC1002はUSB PDに対応しており、機器を接続すると「5V/3A」「9V/3A」「15V/3A」「20V/2.25A」という4つのFixed Supply PDOをSource_Capabilitiesメッセージで通知します。
このSource_Capabilitiesメッセージは外装の表記と一致しており、その点においては特に問題はありません。しかしながらこれとは別に、1点少し気になる挙動を確認しました。
それは、USB PDのネゴシエーション後にDiscover Identifyコマンド・Discover SVIDsコマンドの送受信を行っていたという点です。
Discover Identifyコマンド・Discover SVIDsコマンドというのはVendor_Definedメッセージの1種で、簡単に言うと「あなたは何者ですか?」「私はこういう者です」「あなたは何に対応しているんですか?」「私はXXに対応しています」という確認のために使われます。そのため、それらがやり取りされていたからといって、いきなり何か変な動作を引き起こすようなことはありません。
しかしながら、「機器にUSB PDで給電する」という目的に対して必要なやり取りかというとそれはそれでノーなので、少し気になるのは否めません。 (後述の「iPhone/iPadが接続された時にのみ挙動を変える」という実装のために行われていると考えられる)
Split PDO
Inateck UCC1002はSplit PDOの可能性があります。
「可能性がある」とは何とも曖昧な表現ですが、その理由はiPad Pro 10.5を接続した時にだけ確認したからです。
Inateck UCC1002は機器が接続されると「5V/3A」「9V/3A」「15V/3A」「20V/2.25A」という4つのFixed Supply PDOを持つSource_Capabilitiesメッセージを送信します。これはiPad Pro 10.5を接続した場合に限らず、すべての機器で行われます。
普通はその後にネゴシエーションが行われて終わりなのですが、このInateck UCC1002の場合、iPad Pro 10.5を接続した場合でだけネゴシエーション後に「5V/3A」「15V/3A」という2つのFixed Supply PDOを持つSource_Capabilitiesメッセージを送信していることを確認しました。
この挙動の問題点は「送信されているPDOが少ない」という点です。正常な動作であれば5V・9V・15V・20Vという4つのPDOが機器に対して送信されるはずですが、もしこのSplit PDOな挙動が起きた場合、機器に送信されるPDOは5Vと15Vの2つのみとなります。世界中のあらゆるUSB PD製品と接続テストをしたわけではないので起こるか起こらないかは未知数ですが、例えば20Vを必要とするノートPCに接続した際にこの挙動が起きた場合、正常に給電できないことが予想されます。
頼んでもいないのにInateckの人から以下のようメールが飛んできました。
早速ですが、ブログでご掲載いただきましたレビュー記事をご拝読させていただきました。内容がとても詳しくてプロフェッショナルですと思われています。
ご指摘いただきました2つの問題点については、弊社の製品部の担当の方も非常に重視しており、早速に製造工場の方と連絡して、確認して検証いたしました。
>USB PDのネゴシエーション後にDicover Identify/SVIDsの送受信を行っていたという点です。
この点については、iOSのデバイスはPD充電プロトコルに適合しないので、高速充電を実現するために、Dicover Identify/SVIDsの送受信を行って、充電されるデバイスがiOSデバイスかどうかを確認してから、iOSのデバイスの「5V」の充電プロトコルをPD充電プロトコルに変換します。
>送信されているPDOが少ないという点です。
Apple製品の特定性により、iOSデバイスを充電するときに、普通充電(5V)と高速充電、2つのPDOしか要求しません。iPhone8の充電を検証した結果も、送信されるPDOは5Vと9Vの2つのみとなります。iOS以外のデバイスを充電する時には4つのPDOを提供します。
もしこちらが理解不足や間違いましたところがありましたら、ぜひご指導ご鞭撻のほどよろしくお願いいたします。
ご多忙の中に、メールをご覧になっていただき、誠にありがとうございました。
では、よろしくお願いいたします。
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Inateck営業担当
Eika
「iOSのデバイスの「5V」の充電プロトコルをPD充電プロトコルに変換します」という部分はちょっと何言ってるか分からないですが、それ以外の説明は「iPad Pro 10.5を接続した場合にのみSplit PDOっぽい挙動が確認された」という現象と辻褄が合うものです。
中国の方が頑張って書いたであろう日本語なので少し意味を読み取りにくいですが、
- Discover Identifyコマンド・Discover SVIDsコマンドを送受信するのは、接続されているデバイスがiPhone/iPadなのかを確認するため
- 通常はSource_Capabilitiesメッセージで4つのPDOを通知する
- iPhone/iPadが接続されていると確認した場合にのみ通知するPDOを2つに減らす
と私は解釈しました。
この実装は完全に「余計なお世話」です。というのも、USB PDにおいて、出力される電圧を選択するのはSink (電力を受け取る側) の役割だからです。
USB PDでの電力供給は、Source (電力供給側) が「私はXボルトxアンペア・Yボルトyアンペア・Zボルトzアンペアを出力できます」とSinkに対して通知し、Sinkはその中から自身に最適な電圧・電流をリクエストして電力を供給してもらう、という流れで行われます。出力する電圧・電流を決めるのはSourceではありません。仮に、Sinkが対応していない電圧・電流を通知されたとしても、対応している別の電圧を指定すれば、問題なく安全に給電を行うことができる、という仕組みです。
Inateck UCC1002の挙動は、その仕組みを完全に無視した設計となっています。「接続している機器によって挙動を変える」というのは、世の中にある無数の機器に接続されるサードパーティのACアダプタに実装すべきものではありません。
そういった観点から、この仕様は、USB PDの互換性に対する考え方を無視している・理解していない設計だと言えるでしょう。
USB BC 1.2 DCP / Apple 2.4A
USB BC 1.2 DCP
Inateck UCC1002はUSB BC DCPに対応しています。
Apple 2.4A
Inateck UCC1002はApple独自の2.4A (12W) 給電に対応しています。
その他
過電流防止機構
Inateck UCC1002は過電流を防止する機構を備えており、5V時では約17Wで出力がシャットダウンされました。
VBUS
Inateck UCC1002はUSB Type-Cの規格通り、機器が接続されるまでVBUSに電圧を印加しません。
Configuration Channel
Inateck UCC1002のCC1・CC2はUSB Type-Cの規格通り、それぞれが別個のRpでプルアップされています。
所感
このような予想の斜め上を行く実装は、USB-IF認証のコンプライアンステストでも見つけることが難しい気がします。
USB-IFの認証を取得している製品でも訳の分からない仕様になっているものがある、ということで、やはり出処の分からない胡散臭い中華ブランドの製品には注意したほうが良さそうです。