PowerIQ 3.0 (Gen2) なるものが爆誕しましたが、初代PowerIQ 3.0がUSB PDの仕様に違反していたこともあり、Gen2も疑っている人も多いのではないのでしょうか。
この記事ではそんなPowerIQ 3.0 (Gen2) について語ります。
※Quick ChargeなどのUSB系以外の急速充電に対応している件は、言及するまでもないというか言わずもがなだと思っているのでスルーします
初代PowerIQ 3.0について
初代PowerIQ 3.0はSource_Capabilitiesメッセージの5V Fixed PDOのMaximum currentが2.4A (2400mA) となっており、これはSourceパワールール違反です。この違反により、充電が遅かったり、充電ができないというデメリットが発生します。
……というのが上記の記事の内容です。ただ、これはあくまで分かりやすい違反部分を説明しているだけで、気になる部分はこれだけではありません。そのため、まずはそれを説明します。
※PowerPort Atom III (Two Ports) [A2322121] とPowerPort Atom III 60W [A2613121] の両方で同じ挙動をすることを確認しています。
Dual Role Dataのフラグが立っている
この画像は、USB PDアナライザー DTW2U3でキャプチャした初代PowerIQ 3.0のSource_Capabilitiesメッセージの5V PDOです。Maximum Currentが2400mAになっています。
Maximum Currentが2400mAになっているのは論外ですが、今回言及したいのはDual Role Dataのビットが1となっている部分です。このビットは、そのUSB Type-CポートがDual Role Data、つまりDFPとUFP (データ伝送における主と従) の両方になることができるかどうかを示しています。このビットが1になっている = フラグが立っていると、DRDである = DFPとUFPの両方になることができる = Data Role Swapできることを示します。
問題は「ACアダプターがDual Role Dataである必要性があるのか」という点です。私が知らないだけでData Role Swapする必要がある場面があるのかもしれませんが、私はないと思っています。そのため、Dual Role Dataのフラグが立っているのは適切ではないという認識です。
Alternate Mode Adapter ?
PowerIQ 3.0気になりポイントの2つ目は、Discover Identify (ACK) コマンドで自分のことを「Alternate Mode Adapter」と通知することです。
上記の画像は、PowerIQ 3.0なACアダプターとiPad Pro 11 (2018) を接続した際のUSB PDのパケットです。まず電力のネゴシエーションが行われ、その後にSink (充電される側の機器、今回はiPad Pro 11) がDiscover Identify (Request) コマンドでACアダプターの素性を確認しています。
それに対してSource (ACアダプター) は、「ベンダーはCypressで、UFPの時はAlternate Mode Adapter、DFPの時はPower Brick」と返答しています。 (04B4はCypressのUSB Vendor IDです。CypressのUSB PDコントローラーICを使っているみたいです)
DFP時はPower Brickだと言っているのはその通りなので良いとして、問題はACアダプターがAlternate Mode Adapterなのかどうかという点です。Alternate Mode Adapterは読んで字の如く、「1つまたはそれ以上のAlternate Modeをサポートしているデバイス」とUSB PDの仕様で定義されています。つまり、普通は「DisplayPort Alternate Mode対応のUSB Type-Cハブ・変換アダプター」のようなデバイスを想定しています。
しかしながらこれはACアダプターであるため、当然DisplayPort Alternate Modeなどには対応していません。そのため、「Alternate Mode Adapter」ではなく「Undefined」が適切な気がします。 (まぁそもそもACアダプターがData Role SwapしてUFPにならなければこんなことを考える必要はないわけですが)
実害があるかないかで言ったらまず無いとは思いますが、USB PDのパケットを見ていて気になりました。HDMI出力のあるUSB Type-Cハブの設定でも使い回したんでしょうか。
初代PowerIQ 3.0で気になった部分まとめ
- 5V PDOのMaximum Currentが2400mA
- Dual Role Data = 1
- Alternate Mode Adapter
PowerIQ 3.0 (Gen2) ではどうなっているのか
ということで初代PowerIQ 3.0で気になった箇所について全部説明したので、PowerIQ 3.0 (Gen2) に移ります。
PowerIQ 3.0 (Gen2) 搭載ACアダプターのサンプルとして使ったのはPowerPort III 65W Pod [A2712121] です。
5V PDO & Dual Role Data
PowerIQ 3.0 (Gen2) では5V PDOのMaximum Currentが3000mA (3.0A) となっています。これはUSB PDの仕様で定められてるSourceパワールールに準拠しています。
また、初代PowerIQ 3.0では1となっていたDual Role DataのビットもPowerIQ 3.0 (Gen2) では0となっています。
Alternate Mode Adapter
初代PowerIQ 3.0と異なり、PowerIQ 3.0 (Gen2) はDiscover Identifyコマンドに対してNot_Supportedを返答します。ACアダプターとしては問題ない挙動だと思います。
PowerIQ 3.0 (Gen2) まとめ
- 初代PowerIQ 3.0で気になった部分は全て修正されていた
所感
5V 2.4Aが修正されているだけで他の部分は放置されていると思っていましたが、フタを開けてみれば思っていた以上にマトモになっていました。
Qualcomm Quick Charge 2.0/3.0やApple 2.4Aに対応しているので厳密にはUSB Type-C仕様違反ですが、別に実害があるわけではないので、PowerIQ 3.0 (Gen2) は普通に良いんじゃないでしょうか。